野田秀樹新作「エッグ」を観る。知ったつもりの過去を置き去りにしてはいないか?

先週末。恒例行事となっている野田秀樹の新作舞台「エッグ」へ。

 

 

音楽は椎名林檎、主演の深津絵里が林檎プロデュースの曲を劇中で歌い、 妻夫木聡、仲村トオル、藤井隆、橋爪功ら豪華キャストという強力布陣の注目作。 リニューアルした東京芸術劇場プレイハウス。野田秀樹が芸術監督ということで、 演劇に相応しい舞台に生まれ変わっていた。

 

「エッグ」という卵を使った滑稽な集団競技のロッカールームである。 オリンピック出場をかけた日中戦からストーリーは進行していく。野田秀樹の作品らしく、 いつの間にか時代が変化していく。1964年の東京オリンピックから、 1940年の幻の東京オリンピックへ遡っていく。1940年は日中戦争の満州が舞台。

 

「エッグ」という競技は旧日本軍が関わったとされる「ある行為」のメタファーであることが徐々に 明るみになっていく。選手たちの背番号によって、それが何であるかは決定づけられる。その瞬間の 劇場の雰囲気たるや、筆舌に尽くしがたい居心地の悪さである。「エッグ」という間の抜けた競技をコミカルに 描写しているが故に、前後半のギャップは大きい。

 

敗戦が確定すると、「ある行為」について記録を塗り替える作業が行われていく。 野田作品らしく、遠慮も配慮もない生々しい描写が受け手に迫ってくる。記録を塗り替え、 難から逃れることができた者たちの台詞は私たちに向けたアイロニーたっぷりのメッセージのようである。

 

オーナー:「さあこれからみんなで逃げるのよ。そのお祝いにシャンパンを開けましょう。ポンポン、ポンポンバカみたいに。 陽気でしょう。病気でしょう。未来に向かってお祝いするの。そうすれば4年前のことなんか忘れる。40年前のことなんか。 400年前のことなんか。4000年前のことなんか。ねぇ、もうどうでもいいでしょう。過去から逃げましょう。」

 

監督:「ノーサイドの笛が吹かれたら今までのことは全て忘れる。それがスポーツだ」

 

オーナー:「さあ望遠鏡を逆さに持って、遠くへ遠くへ逃げましょう。」

 

ふかっちゃん(深津絵里)の変幻自在の演技は舞台でこそ活きる。映像だけでは伝わらない 彼女の魅力が発揮される。幸いなことに前から2列目だったため、ふかっちゃんとは2回は目が合ったような気がする。 椎名林檎も絶賛したように歌唱力、歌声も抜群。さすがの当たり役。

 

妻夫木君と仲村トオルさんはまさに柔と剛というコントラストが見事にはまっている印象だった。 仲村さんの40代後半とは思えない、猛々しいボディは私でさえも目を奪われるほど。

 

橋爪功さんはさすがの貫録。好々爺のような印象から、終末部におけるキャラの大転換は 経験豊富でありながら若い感性を持った橋爪さんならでは表現力。野田さんもそうだけど、脱力した演技という のは見ている側が本当に心地よくなる。

 

舞台は10月28日まで、当日券もあるとのこと。 これを読んだドットジェイピーの学生スタッフたちはちょっと高い投資だけど、 是非とも体感して欲しい舞台だ。

 

毎度のことだが、野田秀樹さんが長崎県出身であることは誇らしいことだ。 2015年、原爆投下70年を迎えるときに、野田さんの舞台を長崎県で上演することはできないかと思う。 (県は本気で検討して欲しい)

 

野田さんの作品中に、長崎の原爆をテーマにした「パンドラの鐘」というものがある。 長崎出身の俳優、女優を中心に実現できたら、世界に向けてのメッセージの発信ができる。

 

文化には私たちが風化させてはいけないものを心の中に呼び覚ましたり、くっきりと刻み込む役割がある。 どうやら私は文化(それも偏った方向?)に傾倒しすぎる政治家と思われているようだが、 文化は暴力の対極にあるものだ。暴力を制御するのは政治の至上命題である。 文化を粗末に扱う政治家なんて、政治家じゃねぇ!と声高に叫びたい。

 

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