それでも前に進んでいく。
中村屋さんに続いて、成田屋さんまで逝ってしまった。
歌舞伎界を牽引する団十郎という立場でありながら、明らかに人格者と思える雰囲気が舞台から溢れ出ていた。猛々しくありつつも、包容力を感じさせる声。男の私ですらうっとりするほどの色気と品格。昨年、7月に市川中車さんと共演した舞台が、私の記憶に残る最後のお姿となってしまった。
私に歌舞伎を教えてくれた友人は「歌舞伎界に太陽がいなくなった。真っ暗闇だ」とショックを受けている。主のいない、新歌舞伎座は4月2日から杮落し公演が始まる。取り壊した「歌舞伎座の呪い」という言葉を出す方が多い。確かに、何人の名優がいなくなったことか。
勘三郎さん、団十郎さんがいない歌舞伎界を誰も想像してなかったと思う。私も喪失感を抱きながら一日を過ごした。それでも、海老蔵さん、勘九郎さんら若い世代が引っ張っていくようになるはずだ。私の御贔屓の四代目猿之助さんもいる。当たり前のことだが、あらゆるものには限りがあるということである。そのことは15年前の父親の死で重々学んだことだが、二人の名優が去っていたことは父親の死をありありと思い出すほどに突然のことであった。