授業前の夕方。お客さんと教室で話していると、帰宅途中の小学生が傘を振り回している姿が見えた。うちの子どもではないが、傘を振り回し、植え込みのつつじの葉や枝を切り倒している。「モンスターハンター」の気分に酔っているのかもしれない。
自分も年を取ってしまったらしい。迷いなく外に駆けた。
「こらっ。何しているんだ!」
「ごめんなさい。悪いことしました」
と、想像以上の高い声で素直に謝られた。注意したこちらの胸が締め付けられるような、純粋な声だった。
「これはね、みんなのつつじなんだよ。ちゃんと守っている人たちがいるんだよ。つつじが可哀想でしょ」
あまりに真っすぐな表情と声に、らしくない言葉が出てきてしまった。私が私ではないような気になった。
夜は中3の授業。
人懐っこい女子生徒が、席に座っても何にもせず音楽を聴いている。授業開始までのアイドルタイムの過ごし方に明確なルールはないが、中3のこの時期なので、他の子たちは勉強している。「ほんの僅かな時間さえ無駄に過ごすな」「隙間の時間こそ、緊張感を持ち、必死に行動することが結果を生む」と常々語っている。うちの子たちは、みんなそれがわかっている。
されど、今夜に限って、その子は不遜であった。軽く注意をしたのだが、反抗的な態度を見せた。彼女に対して初めて厳しく接した。それは男子生徒のマッスレベルと同じ水準だ。もちろん、体罰はしない。基本、口と表情さえあれば充分だからだ。そのかわり、言い方や見せ方は実にきつい。褒めるときは長々と、叱る時は一瞬にして、最高の切れ味を持ってやるべし。
あまりのインパクトに彼女は驚いていたようだが、30分も経てばいつも通り。私は掘り返すようなことはしない。一瞬の切れ味で彼女も理解しただろうし、理解できる子だと信じているからだ。
帰宅して落ち着いたのだろうか。彼女から、メールがやって来た。
「今日はすみませんでした。頑張ります」と。
「あはは。なんのことかわからんけど。君は大丈夫。気を抜くなよ」と返事した。
私にとって今夜の19時頃のことなんて、過去のことだ。彼女にとっても、そうであって欲しい。前に進むと決したのであれば、教室で起きた過去のことなんて些末なことに過ぎない。
叱り方は、10年前に働いていた会社で学びました。当時の先輩方には感謝の気持ちでいっぱい。ただ、子どもを叱ると自分が叱られていたことを思い出すので、胸が窮します。